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神戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)12号 判決

原告

泉菊吉

右訴訟代理人弁護士

中村良三

上原邦彦

被告

淡路労働基準監督署長片井勝

右指定代理人

八木源二

大西良平

森行嘉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五三年三月二八日付でした労働者災害補償保険法による休業補償給付を支給しない旨の処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、兵庫県洲本市木戸六二において建築の基礎工事等の請負業を営む上田建設こと訴外上田十七夫(以下、「上田」又は「上田建設」という。)に土木作業員として雇用されていたものである。

2  本件災害について

原告は、昭和五二年一二月一七日、訴外三好年雄(以下、「三好」という。)宅の納屋新築工事の棟上げ作業(以下、「本件棟上げ」ともいう。)に従事したが、そのとき行われた餅まき行事の際に何者かに衝突されて転倒し、頸髄損傷の傷害を受けた(以下、「本件災害」といい、原告の負傷を「本件負傷」という。)。

そして、原告は、同日から昭和五三年二月一一日まで兵庫県立淡路病院で入院加療し、同月二八日まで同病院で通院加療した。

3  本件処分について

そこで、原告は、労働者災害補償保険法(以下、「労災法」という。)に基づいて被告に対し、同年三月一〇日付で原告の昭和五二年一二月一八日から昭和五三年二月二八日までの右休業期間中の休業補償費の支給を請求したところ、被告は、同年三月二八日付で原告の右負傷が業務上の傷害に該当しないとして、同法所定の休業補償費を支給しない旨の処分(以下、「本件処分」という。)をした。

4  本件処分の違法性について

しかし、原告の本件災害は、上田の支配管理下において生じたものである。しかも、餅まき行事への参加は棟上げ作業に付随するものであるから、餅まき行事に参加している間に生じた本件災害は、業務に付随した危険によって生じたものというべきであり、業務に起因することが明らかである。

従って、本件処分は、事実の認定を誤った違法なものである。

5  よって、原告は、本件処分の取消しを求めるものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  請求原因第2項前段の事実は認める。同後段のうち、原告が昭和五二年一二月一七日から昭和五三年二月二八日まで兵庫県立淡路病院で療養していたことは認め、その余の事実(入通院の区別)は知らない。

3  請求原因第3項の事実は認める。

4  請求原因第4項の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件処分に至るまでの経緯について

(一)(1) 原告は、上田に土木作業員として雇用されていたものであるが、三好も上田の従業員として勤務していたため、原告と三好とは同僚の関係にあった。

(2) 上田は、昭和五二年一二月一六日、三好から翌一七日に洲本市木戸一七三の一に新築工事中の同人方居間兼納屋(以下、「本件納屋」という。)の棟上げをする手伝いに来てくれるよう要請された。

本件納屋は、三好が材料を提供し、大工である訴外増見保(以下、「増見」という。)に手間請負として施工させていたもので、上田の受注、施工にかかるものではないが、淡路島の慣習では、親しい人が家屋を新築するときは、友人、親類又は近所の人達が集まって棟上げを手伝うことになっているところ、三好は上田の従業員で、原告らほかの従業員とも同僚の関係にあるので、上田は、従業員全員に右棟上げに出席するよう声をかけた。

(3) そこで、原告は、同月一七日午前八時三〇分ころから午後三時ころまで右棟上げの手伝いに従事し、午後四時三〇分ころには作業現場の後始末や道具の自動車への積込みを終えた。その後、棟上げに付随して行われる餅まきのための足場や踏台づくりを手伝い、午後五時ころに準備は完了した。

(4) 原告は、午後五時ころから行われた右棟上げの祝賀行事としての餅まきに参加し、餅を拾おうとしていたとき何者かと衝突し転倒して受傷した。

原告は、受傷後直ちに仲野整形外科医院で受診し、その後県立淡路病院に転院し、同病院で頸髄損傷の傷病名のもとに同日から昭和五三年二月二八日まで療養した。

(二) 原告は、本件負傷は業務上の事由によるものであるとして、被告に対し、同年三月一〇日付で昭和五二年一二月一八日から昭和五三年二月二八日までの右休業期間中の労災法による休業補償給付請求をした。

(三) しかし、被告が本件災害について労災法四八条に基づく調査をしたところ、本件災害は業務上の災害とは認められなかったので、被告は、同年三月二八日付で右理由により本件処分をしたものである。

2  労災法一条にいう「業務上の理由による」災害の意義及び要件について

(一) 事業は常になにがしかの危険を包蔵しており、そこで働いている労働者が負傷をし又は病気になることを避けることができない。そこで、右危険を誰が負担すべきかが問題となるが、労働基準法(以下、「労基法」という。)は、この危険のうち業務上の災害(労働災害)については、事業主に重い無過失責任(危険責任)を負わせる建前をとり(同法七五条以下)、他方、この事業主の重い無過失責任につき、労災法は、政府と使用者との間に保険関係を成立させ、政府が使用者に代わって保険給付をする制度を採用している(同法一二条の八第二項、労基法八四条第一項)。

従って、労災法一条にいう「業務上の事由による傷病(災害)」は、労基法七五条以下にいう「業務上の災害」と意義、要件を同一にするものである。

(二) 業務上の災害の意義、要件

(1) ところで、業務上の災害とは、その災害が業務(労働関係)と密接な関係を有することを表現したものにほかならず、災害のうち負傷についていえば、使用者に重い無過失責任を負わせている建前からいって、負傷が労働者の業務遂行中に生じたものであり(業務遂行性)、かつ、その業務内容と事故との間に相当因果関係があること(業務起因性)をその要件としているものと解される。

従って、当該事故が業務上の災害かどうかの判定に際しては、業務遂行性及び業務起因性の要件を充足しているかどうかが検討の対象となるのであり、使用者の主観的な事情や労働者自身の過失、重過失の有無又は第三者の加害による場合かどうかはいずれも、要件とはならない。

(2) 業務遂行性とは、労働者が労働関係に基づき事業主の支配下にあることをいうのであるが、労働者の時間的ないし場所的状態そのものを指す実体的概念ではなく、事業主に対する労働者の従属状態そのものを指す機能的概念であると解される。それゆえ、業務遂行性は、個別具体的な労働関係に対応してその内容を画定すべきであるが、一般的には、労働契約によって事業主の命ずる行為(事業主の支配従属下にある行為)及びそれに付随する行為をいい、更に、緊急事態において使用者の命によらない場合でも当該事業の労働者としてそれを行うことが通常期待されるような合理的な行為も、業務遂行性を有するものと考えられる。

しかし、私用外出中の災害、労働者自身の業務遂行途上のものといえない災害(私的行為中の災害)、業務遂行途上の行為であっても業務とは何ら必然的な関係のない行為による災害は、業務遂行性を有するものとはいえない。

(3) 業務起因性とは、その災害が当該業務に内在している危険の現実化したものであり、当該業務遂行と災害(現実化した危険)との間に相当因果関係(災害の予測性)があるかどうかをいうものである。そして、この危険は、業務自体に内在している危険と、業務に通常付随する危険とに分けられる。

業務自体に内在している危険としては、事業場の施設等の欠陥が典型的なものであり、作業環境が一定の危険を内包している場合も業務自体に内在している危険ということができる。

また、業務に通常付随する危険とは、一般的には業務自体に内在する危険といえない天災や第三者による災害が、業務の性質により、当該業務に通常付随する危険(当該業務では通常よりも危険の度合が高度である)であると解される場合である。

(三) 以上のとおり、業務上の災害とは、使用従属関係のもとにある労働者がその業務に起因して被った災害であると認められる場合をいうものである。そして、業務遂行中に生じた災害は業務に起因するものと推定されるが、被災者の積極的な私的行為や恣意的行為によって災害を招いた場合には、私的行為、恣意的行為による災害として除外される。

3  本件処分の適法性について

(一) 棟上げ作業手伝いの非業務性

(1) 原告の本件災害当日の棟上げ作業の手伝いは、上田の依頼によるものであるが、それは、原告に対する業務命令を意味するものではなく、淡路島の慣習によって友人又は同僚として三好の本件納屋新築の祝賀行事としての棟上げを手伝うよう依頼した雇用従属関係とは関係のない行為である。

(2) すなわち、上田は、棟上げ当日の手伝いについて、施主の三好から、上田をはじめ、上田建設の従業員全員が招かれたので、その旨を従業員に伝達し、手伝いを呼びかけたものにすぎず、このことは、上田が棟上げ作業に関して従業員に対する具体的な仕事の指揮や監督をしていないこと、上田は、従業員に対し、当日の作業に対する賃金を支払っておらず、これに対し、原告を含む従業員からも賃金支払いの要求はなく、ただ三好において、祝儀として原告ら従業員に対し一人当たり三〇〇〇円が渡されているにすぎないこと及び従業員全員で清酒二〇本を持参して三好に祝いとして贈っていることからも明らかである。

(3) 従って、当日の作業に関しては、事業主たる上田と原告との間には、雇用従属関係はなく、当日の作業は原告の私的行為であるといわざるを得ない。

(二) 棟上げ作業と餅まき行事との関係

仮に、本件棟上げ作業の手伝いが、事業主上田の支配監督下における業務に該当するとしても、餅まき行事並びにその準備及び後始末作業は、本件棟上げ作業とは峻別されるべきである。

(1) 棟上げ作業は、大工の指揮監督の下に、家屋新築工事に不可欠な一工程として行われるものとしても、その作業は、棟木を納めた時点で終了する。

(2) ところが、餅まき行事は、施主がその判断により主催するいわゆる祝賀行事であり、棟上げ作業に不可欠なものとして必ず行われるものではなく、また、右行事は、棟上げ作業の手伝いをしたものだけが参加するものでもない。

(3) そして、本件では、上田は、従業員に対して餅拾い等餅まき行事への参加を命じることもしていない。

なお、当日の棟上げ作業は午後三時三〇分ころから同四時三〇分ころまでには終了し、その後は原告を含む従業員はいつでも帰宅できる状態にあり、かつ、原告は本件作業場からバスを利用して帰宅する方法もあったのに、同僚である訴外林昇(以下、「林」という。)に会社の車で送って欲しい旨頼んで、餅まきの終了するのを待っていたにすぎない。

(4) 従って、当日の餅まき行事並びにその準備及び後片付けは、棟上げ作業とは無関係であるから、原告の本件災害は、原告が餅まき行事に参加していたかどうか、すなわち、餅拾いをしようとしていたかどうか及び餅まき行事の準備、後片付け作業を手伝っていたかどうか等にはかかわりなく、原告の私的行為中に発生したものであり、業務遂行とは全く関係がない。

(三) 餅まき行事と本件災害について

仮に、餅まき行事が業務に関係のあるものであるとしても、なお、本件災害は、私的行為中の事故であり、業務起因性を有しない。

(1) 仮に、餅まきのための足場や踏台作りの作業及び餅まき終了後の後片付けが本来の業務に付随する行為であるとしても、餅まき行為の間は業務が中断されており、また、これに参加するかどうかは原告の自由に決しうるものであるから、餅まき行事に参加し、餅を拾う行為そのものは業務とは全く関係がなく、休憩時間中の行為に類するものというべきである。

(2) 本件における餅まきは、施主である三好が棟上げの祝賀行事として行ったものであるところ、原告は、自主的判断及び同僚の友誼等の配慮からこれに参加し、餅を拾おうとしていたときに群集の一人と衝突して負傷したものである。

(3) 仮に、右(2)の事実が認められないとしても、原告は、自宅へ電話をかけに行った帰りに餅を拾おうとした群集の一人と衝突して負傷したものである。

(4) 従って、本件災害は、いわば休憩時間又は手待ち時間中の私的行為に類する行為によって生じたものであるから、業務に起因する災害ではない。

4  以上のとおり、本件災害は業務に起因する災害とは認められないから、本件処分は適法であり、これを違法とする原告の主張は理由がない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張第1項について

(一) 同項(一)の(1)の事実は認める。同(2)のうち、三好が増見に本件納屋の新築を手間請負として施工させたものであることは認め、その余の事実は否認する。同(3)の事実は認める。同(4)前段の事実は否認し、同後段の事実は認める。

(二) 同項(二)の事実は認める。

(三) 同項(三)の事実中、本件災害が業務上の災害とは認められないとの点は争い、その余の事実は認める。

2  被告の主張第3項について

(一) 同項(一)の(1)の事実は否認する。同(2)のうち、上田が従業員に対し、棟上げ当日の作業に対する賃金を支払っていないこと及び三好が祝儀として従業員に対し、一人当たり三〇〇〇円を贈っていることは認め、その余の事実は否認する。同(3)の主張は争う。

(二) 被告の主張第3項(二)の冒頭部分及び同(1)の各主張は争う。同(2)及び(3)の各事実は否認する。同(4)の主張は争う。

(三) 被告の主張第3項(三)の冒頭部分及び同(1)の各主張は争う。同(2)及び(3)の各事実は否認する。同(4)の主張は争う。

3  被告の主張第4項の主張は争う。

五  原告の反論

1  本件災害に至る経緯について

(一) 原告は、前述のとおり、上田に土工として雇用され、同人の請負った工事現場で掘り方、栗石敷き、型枠ばらし、足場組立て、資材運搬及び大工の下手伝い(材木を運搬したり、柱、はりの組立ての補助をしたりして大工を手伝う作業のこと。)などの作業に従事していた。

その際、原告は、由良の自宅からバスで洲本に行き、洲本のバス停で上田の自動車の出迎えを受け、これに乗って工事現場に赴き、帰りも右自動車で洲本のバス停まで送ってもらっていた。

(二) ところで、上田は、三好から同人宅の古い納屋の取壊し工事及び本件納屋の基礎工事を請負った。そして、原告ら上田の従業員は、同人から指示されて右工事を行い、それぞれにつき三、四日を要した。本件納屋の新築工事は、大工である増見が手間請負していたものであるが、三好は、前記基礎工事完了後も上田に大工の下手伝いを依頼したので、上田は、従業員らに指示して大工の下手伝いに従事させた。なお、こうした下手伝いは上田が奉仕として行ったものではなく、請負業として、三好との間に請負契約を締結して行ったものである。

そして、三好は、昭和五二年一二月一七日に本件納屋の棟上げを行うこととしたが、これについても上田に対して大工の下手伝いを依頼し、これを承諾した上田は、同月一六日に原告を含む全従業員に対し、翌一七日には三好宅の納屋の棟上げの際の大工の下手伝いに従事するよう指示した。

(三) 原告は、右の上田の業務命令に応じ、同月一七日は、平常どおり由良から洲本までバスに乗り、洲本のバス停で上田の自動車を待ち、午前八時ころには林の運転する自動車が来たので、これに乗って三好宅工事現場に向った。

そして、原告は、他の上田の従業員らとともに大工の下手伝いに従事した結果、本件納屋の棟上げは午後三時三〇分ころ終了し、その後は、作業現場の後始末、作業用具の自動車への積込み、餅まきのための足場や踏台作り及び餅、酒、魚等を餅まき台(足場)に揚げる作業に従事したが、この作業も午後四時三〇分ころには終了した。

(四) そして、原告は、林に餅まき及びその後始末が終わってから自動車で洲本のバス停まで送ってくれるよう依頼し、その承諾を得てから、妻に洲本のバス停で待ち合わせの連絡をとるために、午後四時四〇分ころ三好の母屋にはいり、妻に電話をした。

右電話を終えて原告が母屋を出たときには、既に餅まきが始まろうとしており、本件納屋の回りには約一五〇人ほどの人が集まっていた。原告は、母屋から出て上田の従業員らが待機していた本件納屋の東側へ行こうとして母屋と本件納屋との間の庭を通行していたときに、餅まきが始まり、うしろから何者かに衝突されて転倒したものである。

2  棟上げ作業の業務性について

(一) 淡路島における慣習として、施主の親戚、知人が棟上げ作業を奉仕で手伝うことがある。

しかし、その場合の親戚、知人とは、冠婚葬祭のつき合いをしている人であって、いとこ、はとこは含まれず、親兄弟同然のつき合いをしている親族、同じ部落で普段のつき合いをしている知人などがこれに該当する。

(二) また、棟上げ作業とは、大工によって切りきざまれた材木を組立てて建物の骨格を作る作業であるが、その性質上、高所や建築中というきわめて不安定な場所での作業が要求され、更に、レッカー車で重量のある材木を高く吊り上げるなど危険度も高いので、素人の親戚、知人だけでは到底これを行うことはできない。

従って、棟上げ作業には、土工、とびなどの建築の専門家の手伝いが必要であり、親戚、知人の手伝いは、補助的なものにすぎず、最近では労働災害防止の観点から親戚、知人を現場に入れないようになってきている。

(三) 更に、本件には、次のような事情が存在した。

(1) 原告は、三好とは親戚関係はなく、単に上田の下で一緒に働いている同僚という関係があるに過ぎず、三好においても、原告を友人として棟上げに招待したり、手伝いをしてもらおうという気持ちはなかった。

(2) 三好は、上田に対し、本件棟上げの一週間も前から一二月一六日と同月一七日の両日の棟上げ作業の手伝いにつき、両日とも四、五人位来てくれと同時に依頼しており、棟上げ前日の手伝いと棟上げ当日の手伝いとを区別していない。

(3) 三好は、上田に対し、棟上げ当日の手伝いについても労務賃金を支払うことを申入れるとともに、上田の従業員に対しては、親戚、知人には支払っていない祝儀を贈っている。

(4) 上田は、棟上げ当日の手伝いについては労務賃金を受取っていないが、これは、当日の手伝いが奉仕であると強弁するためである。現に、上田の従業員は、これまで他の現場の棟上げ作業の手伝いを行ったときは施主から祝儀をもらい、上田からは賃金を支給されていた。

(5) 上田は、棟上げ作業の手伝いについて、原告に対し、「明日三好さんの家の建てまえやから行ってやってくれ。」と指示しており、この指示は、棟上げ前日の手伝いについての「下立ちするから行ってやったってくれ。」との指示と何ら異るところはなく、いずれも業務命令と解せられる。また、上田は、棟上げ当日も棟上げ作業に関して従業員を指揮監督していた。

(四) 従って、これらの事情を総合すれば、本件棟上げ作業は業務に該当するものというべきである。

3  餅まき行事の業務性について

(一) 餅まき行事について

(1) 淡路島では、棟上げの儀式が終わったあとで餅まきを行う風習がある。

(2) ところで、棟上げの儀式及び餅まきは、施主、神主などの一般の人が未完成で不安定な建築物の高所に登って行うものであるから、このような人が上に登る足場や餅をまくときの台が必要であるが、こうした設備を完全に、しかも、高所で組立てることができるのは、技術のある大工、とび、土工らに限られる。

(3) また、餅まきが終ったあとで、先に設置した餅まき台(足場)、梯子をそのまま残すか片付けるか、また片付けるとしていつどのように片付けるのかは、翌日からの作業との関連で建築請負業者が判断すべきことがらであるが、棟上げの儀式及び餅まきに用いた供物、もろぶた、掛矢などは、翌日からの建築作業には不要であり、かえって仕事に支障を来たすものであるから、通常棟上げの当日のうちに片付けられている。そして、こうした作業も高所で、かつ、不安定な場所で行われるのであるから、やはり、大工、とび、土工らの仕事となる。

(4) 従って、餅まきの準備作業及び後始末作業は、建築請負業者が責任をもって行うべきものであり、棟上げ作業に付随する業務というべきである。

(二) 本件棟上げについても、作業の手伝いをした上田建設の従業員は、全員棟上げ作業終了後も帰宅せず、餅まきの準備及びその後始末を行っている。

(三) 従って、棟上げの際の餅まき準備作業及び後始末作業も業務であるから、本件災害には業務遂行性が認められるべきである。

4  上田の支配管理性について

仮に、棟上げ作業終了により業務が終了したとしても、前述したように、原告が上田に雇用されて以来ずっと洲本のバス停から建築現場まで上田の車で送迎され、同車に同乗することが義務付けられていたことからすれば、原告は、当日も洲本のバス停に着くまでは、同人の支配管理下にあったといえる。

従って、本件災害は、この点からも業務遂行中に発生したものであるというべきである。

5  業務起因性について

(一) 手待ち時間中の災害について

(1) 手待ち時間は、作業行為の一種とみることができ、手待ち時間中の災害についても、恣意的行為や私的行為と認めるべき積極的な事情がない限り、業務起因性があるものというべきである。

(2) 本件災害は、原告が餅まきの準備作業終了後、後始末作業までの手待ち時間中に三好の母屋で電話したあと上田の従業員らが待機していた場所へ行く途中で発生したものである。

(3) 従って、本件災害には、業務起因性が認められるべきである。

(二) 休憩時間と業務起因性について

仮に、本件災害が手待ち時間中ではなく、休憩時間中に発生したとしても、なお、次の理由により、業務起因性が認められるべきである。

(1) 休憩時間について

休憩時間中の個々の行為のうち、それ自体としては私的行為であっても、生理的必要行為、作業と関連がある各種の必要行為及び合理的行為については、業務付随行為として業務起因性があるものというべきである。

(2) 妻への架電行為について

自宅への電話連絡は労働者にとって必要なものであり労働者が手待ち時間又は休憩時間に自宅へ電話連絡することはよく見られるところである。

従って、原告が妻に電話をしたことは、用便、飲水、食事などの生理的必要行為に準ずる行為というべきである。

(3) 餅拾い行為について

淡路島では、棟上げのときに餅まきを行う風習があるが、施主としても、たくさん餅まきに集まってきた方がうれしいということもあって、棟上げ作業の手伝いをしたとび、土工らも餅まきに参加して餅を拾うのが通例である。そして、本件においても上田の従業員らは餅を拾っている。

従って、仮に、原告が餅を拾おうとしていたとしても餅拾い行為は、恣意的行為、私的行為ではなく、棟上げの下手伝いと関連がある必要行為、合理的行為というべきである。

(三) 施設の状況と業務起因性について

本件災害は、原告が中庭を通行中、餅を拾おうとした何者かに衝突されたために発生したものであるが、当日の本件建築現場は、一五〇名位の人が餅拾いのために集まってきており、群集が上から投げられる餅を競って拾いあい、原告において、衝突の危険のある場所を通行せざるを得ない状況にあった。

従って、仮に、原告が妻に電話をかけた行為又は餅拾い行為が手待ち時間中又は休憩時間中の積極的な私的行為であるとしても、本件災害は施設の状況に起因するものであるとして、業務起因性が認められるべきである。

6  以上のとおりであるから、本件傷害を業務上の災害と認めなかった本件処分は違法である。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論第1項(一)の事実は認める。同項(二)のうち、後段の事実は否認する。同項(三)のうち、上田が業務命令を発したとの点は否認し、その余の事実は認める。同項(四)の前段の事実は認め、後段の事実は否認する。

2  原告の反論第2項について

(一) 同項(一)の前段の事実は認め、後段の事実は否認する。

(二) 同項(二)の事実は否認する。

(三) 同項(三)の(1)及び(2)の各事実は否認する。同(3)のうち、三好が上田の従業員に対し、祝儀を贈っていることは認め、その余の事実は否認する。同(4)のうち、上田が本件棟上げについて労務賃金を受取っていないことは認め、その余の事実は否認する。同(5)の事実は否認する。

(四) 同項(四)の主張は争う。

3  原告の反論第3項について

(一) 同項(一)の(1)の事実は認める。同(2)及び(3)の各事実は否認する。同(4)の主張は争う。

(二) 同項(二)の事実は認める。

(三) 同項(三)の主張は争う。

4  原告の反論第4項の主張は争う。

5  原告の反論第5項(一)の(2)の事実は否認する。同(3)の主張は争う。同項(二)及び(三)は争う。

6  原告の反論第6項の主張は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因第1項、第2項前段及び第3項の各事実並びに原告が昭和五二年一二月一七日から同五三年二月二八日まで兵庫県立淡路病院で療養したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件処分の適否について

そこで、本件処分が適法であるかどうかについて検討する。

1  業務上の災害について

(一)  労基法は、労働者の業務上の災害(労働災害)については事業主に無過失責任を負わせ(同法七五条ないし七七条、七九条及び八〇条)、他方、事業主の右無過失責任につき、労災法は、政府と使用者との間に保険関係を成立させ、業務上の事由による労働者の災害に対し、政府が使用者に代わって保険給付をすることにより、その補償を行う制度を採用している(同法一二条の八第二項、労基法八四条一項)。

従って、労災法一条に規定する「業務上の事由による傷病(災害)」と労基法七五条以下に規定する「業務上の災害」との意義ないし要件は同一であると解される。

(二)  そして、こうした現行の労働者災害補償制度の趣旨、目的、その他労基法施行規則三五条の規定などを考え合わせれば、右の業務上の事由による労働者の災害とは、その災害が労働者の業務の遂行中に発生したものであって、かつ、その業務と災害との間に相当因果関係が存在すること、すなわち、災害の発生に業務遂行性と業務起因性とが認められることを要するものと解するのが相当である。そして、その災害が業務上の災害といえるかどうかの判断は、右業務遂行性と業務起因性との相関関係において行われるべきものである。

(三)  そして、右の意味における業務遂行性が認められるためには、労働者が労働関係に基づく使用者の指揮命令ないし支配下に置かれていることを前提とするものであるから、私用外出中の災害、業務遂行途上のものとはいえない私的行為中の災害又は業務遂行途上の行為であっても業務とは何ら必然的又は合理的関係のない行為による災害は、業務遂行性を有するものとはいえない。

(四)  そこで、以下において、本件災害につき、前述の業務遂行性及び業務起因性が認められるかどうかについて、検討することとする。

2  棟上げ作業について

(一)  (証拠略)を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 淡路島では、棟上げの際に、施主の親戚、知人等が棟上げ作業を奉仕で手伝う風習があるが、こうした手伝いをする者は、通常の場合、施主との間に冠婚葬祭などのつき合いのあるごく親密な関係の親戚及び近隣の知人などに限られる。

ところで、棟上げ作業とは、大工によって予め一定の寸法に切りきざまれた材木を組立てて建物の骨格を作る作業であるが、こうした作業は、いきおい、高所で、しかも建築中というきわめて不安定な場所で行われ、更に、クレーン車で重量のある材木を高く吊上げるなどの危険な作業もあるので、前述した親戚、知人による棟上げ作業の手伝いは、これを行う人が建築業にかかわっていたり、高所での作業に慣れている場合以外は、ごく補助的な作業にしか従事できないのが一般である。そこで、近時は、労働災害防止の観点から、こうした素人の手伝いを現場に入れないという扱いも行われている。

(2) 上田の従業員で原告とは同僚の関係にある三好(但し、同人は農業に従事しているので、上田建設で働くのは、農閑期の一月から四月までで、その間の労働日数も多くて月に二〇日、少ないときで三ないし五日である。)は、自宅納屋(本件納屋)の新築を計画し、旧納屋の取壊し作業及び本件納屋の基礎工事を上田建設に請負わせ、上田建設では、昭和五二年一一月ころ、四、五日間を要してこれらの作業及び工事を完了した。

(3) 他方、三好は、本件納屋新築の大工仕事を大工の増見に手間請負させ、同年一二月一七日に本件納屋の棟上げが行われることになったが、その当日及び棟上げの下準備を行う前日は、人手、とりわけ、大工の下手伝いが必要であったので、三好は、棟上げの約一週間前に上田に対し、この両日、従業員を四、五人派遣してくれるよう依頼し、これを承諾した同人は、同月一六日には四人の従業員を派遣し、更に、同日中に原告を含む従業員一〇名全員に、「明日は年男さんとこの棟上げがあるので、手伝いに行ってやってくれよ。」と指示した。

なお、三好は、本件棟上げに先立って、約三〇名の親戚、知人に棟上げの手伝いを依頼しているが、原告を含む上田建設の従業員に対しては、直接手伝いの依頼はしていない。

(4) 上田建設では、平常の勤務の際には、作業用のトラックに従業員を乗せて(運転手は、従業員の中で運転免許を有する者が適宜分担していた。)現場に赴くことになっていたが、本件棟上げ当日も、作業用のトラック(この日は、林が運転した。)が用意され、途中、淡路交通洲本バス停留所で原告を同乗させて三好方に赴いた。そして、上田の従業員は、午前八時三〇分ころから棟上げ作業に従事し、上田自身は、午前一〇時ころ三好方に到着した。

当日の棟上げは、上田の従業員一〇名を含め、四、五〇名で行われ、その指揮は主として増見が行っていたものの、上田も自分の従業員に対し、作業に関して適宜指示を与えていた。そして、本件棟上げは、遅くとも午後四時三〇分ころには終わり、午後五時ころからは、棟上げの完了した本件納屋から餅まきが行われた。

(5) 右餅まきの終了後、三好の主催する祝宴が開かれ、負傷した原告を除くすべての上田の従業員がこれに招待されて参加した。

なお、当日、上田は清酒五本を、原告を含む従業員一同は清酒二〇本をそれぞれ祝いとして三好に贈り、三好は、上田に一万円、他の従業員に三〇〇〇円を祝儀として贈っている。

(6) 三好は、昭和五三年一月ころ、こうした上田建設の従業員による一連の作業に対する報酬を支払うために上田建設を訪れ、その旨を上田に告げたが、同人が、以前上田建設の従業員である訴外川添恒雄方の棟上げの際に、川添において棟上げを手伝った同僚の上田建設従業員に対して労賃を支払わなかった例があることを引合いに出し、本件棟上げ当日分の人夫賃はいらない旨答えたので、本件棟上げ当日の人夫賃を除く三〇万円を上田に支払い、これにより、上田、三好間の本件納屋新築工事に関する債権債務は清算された。

以上のような事実が認められ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、上田が原告ら従業員に対し、本件棟上げを手伝うようにいった際に、右手伝いは、同僚のよしみで行うべきものであって、手伝うかどうかは各自の自由意思で決めるべきことがらである旨を明示していた事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  以上認定、説示したところによれば、上田が棟上げ前日に原告ら従業員に対してした、三好方棟上げ作業に従事するようにとの指示は、雇用従属関係を前提とする指示であり、原告は、棟上げ当日も雇用主である上田の支配管理下において棟上げ作業に従事したものと認めるのが相当である。

(三)  なお、被告は、上田が従業員に対して当日分の賃金を支払うことを考えておらず、現に、当日の賃金は支払われていないこと及び当日、上田らは三好に清酒を贈り、他方、三好は原告らに祝儀を贈っていることを理由に、本件棟上げの手伝いは慣習による同僚間の友誼的な手伝いである旨主張する。

しかし、業務性を判断するに際しては、あくまでも、当該行為の客観的な外形を基準とすべきものであるから、一方の当事者である上田が本件災害当時、本件棟上げについてどのような認識を有していたかということによって、直ちに本件棟上げ作業の業務性が左右されるものではない。

また、原告を含む上田建設の従業員が、本件棟上げ作業についての賃金を受取っていないことは当事者間に争いがないが、前述した事実関係によれば、これは、上田個人の判断によったものであり、三好の方では、むしろ当初は、当日分の賃金を支払う意思があったことが認められるから、これをもって業務遂行性を否定する根拠とすることはできない。

次に、棟上げ当日、上田及び原告を含む従業員が三好方に清酒を贈り、三好が上田らに祝儀を贈っていることからすると、本件棟上げ作業への参加に儀礼的な要素が含まれていたことは否定できないが、三好証言及び増見証言を総合すれば、三好は、本件棟上げ作業に参加した親戚及び近隣の知人に対してはこうした祝儀を贈っておらず、他に祝儀を贈っているのは増見などの職人に対してだけであることが認められるので、三好自身も親戚等と原告ら上田建設の従業員とを区別して扱っていたことが明らかである。

よって、右の贈答の事実をもって、原告ら上田建設従業員の本件棟上げ作業の業務性を否定すべき事由とすることはできない。

(四)  従って、本件における棟上げ作業は業務に該当するものというべきである。

3  餅まき行事の準備及び後片付けについて

(一)  (証拠略)を総合すれば、次の各事実が認められる。

(1) 淡路島では、棟上げの終ったあとで餅まきを行う風習がある。

この餅まきは、棟上げの祝賀行事として行われるものであり、まず、棟上げをした家の四隅及び中心部に大きな餅を一つずつまき(それぞれ、「隅もち」又は「すまもち」並びに「天餅」という。)、そのあとで小餅をまくというものであるが、この餅まきの際には、棟上げを手伝った人ばかりではなく、近所からも大勢の人が集って餅を拾い、施主にとっては、参加者が多ければ多いほど盛大な行事として満足が得られるというものである。

(2) この餅まき行事の準備としては、餅まき台で餅をまく人(大工を除いては、施主、施主の親戚、知人等で建築業に関係のない人が多い。)のための足場(たるきを並べるのが通例である。)を設け、この足場に上がるための梯子を取付けることと供物及び餅を入れたもろぶたを揚げることなどがあるが、こうした準備は、このときには、既に施主及び施主の家人が餅まきのあとで行われる祝宴の準備に取り掛っていることもあって、手伝いに来た者の仕事とされている。

また、餅まきが終わったあとで、これらの足場、梯子などを残すか片付けるかは、翌日からの作業との関連で建築請負業者が判断することがらであるが、餅まき行事に使用した供物、もろぶたなどは、必ずおろす必要がある。

(3) こうした餅まきの準備及び後片付けは、前述したように手伝い人がするものであり、特に誰が行っても差し支えはないが、高所での作業を伴うために、棟上げの手伝いと同様、土工、とびなどの建設作業員が行うことが多く、本件の場合も、上田建設の従業員は右作業を行っている。

(4) 当日、原告は、祝宴には参加しないで帰宅することにしていたが、三好方から洲本のバス停までは、自動車で約一〇分を要するので、餅まきが終わり、その後始末が終了したのち、林の運転する上田建設の作業用トラックで右バス停まで送ってもらうことになっていた。

以上のような事実が認められ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定事実に、前述のとおり棟上げ作業が業務性を有していることを合わせ考えると、本件において、餅まきの準備及び後片付けは、本来の業務に付随するものとして、なお、業務性を有するものと認めるのが相当である。

4  本件災害時の状況について

(一)  (証拠略)を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 棟上げ後に行われる餅まきは、近隣の人一般をも対象とした棟上げの祝賀行事であり、棟上げに参加した者すべてが参加しなければならないという性質の行事ではない。

しかし、餅まきが行われる間は、いかなる作業も行われないので、棟上げに参加した者が餅拾いをすることは多い。

(2) 本件棟上げ当日、三好宅及びその周辺には、餅を拾うために一〇〇人前後の人が集まり、その大部分は同人宅の母屋と新築中の本件納屋との間の中庭(約一〇〇平方メートル)に集まっていた。なお、この中庭は、現在では造園が行われ、庭木も植えられているが、本件棟上げ当時、こうした庭木は存在しなかった。

(3) 本件棟上げのあとの餅まきには、午後五時ころから約三〇分間にわたり約一石(一八〇リットル)の餅がまかれたが、この餅拾いには上田建設の従業員のほとんどが参加した。

原告は、餅まきの準備が終了したのち、一たん三好方の母屋へ赴き、妻に電話で帰宅時間を連絡してから再び前記中庭に行き、餅を拾おうとして群集の中に入ったとき、同様に餅を拾おうとして殺到してきた群集の一人と衝突してその場に転倒し、本件負傷をした。

(4) 原告は、転倒直後体を動かすことができなかったので、近くで餅を拾っていた同僚の訴外伏見幸雄に対し、隅に移動させてくれるよう依頼して、中庭の南の隅にある井戸のそばまで運んでもらったが、その際、同人に対し、「餅を拾いよったらどこかの若い衆が当たって来た。」と事情を説明しており、また、餅まきが終ったあとで事情を聞かれた同僚や、入院中の見舞客に対しても、「餅を拾いよってぶっつかった。」といっている。

以上のような事実が認められ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定事実によれば、本件災害は、業務である餅まきの準備行為と後片付けとの間の業務が中断した手待ち時間中に発生したものではあるが、業務とは関係のない餅拾いという原告の私的行為によって発生したものというべきである。

(三)  ところで、原告は、淡路島における慣習に照らす限りは、こうした餅拾い行為は、棟上げ作業と関連がある必要かつ合理的な行為とみるべきである旨主張する。

しかし、前記認定のとおり餅まきは棟上げが終ったあとで行われる祝賀行事であって、餅拾いをするかどうかは、あくまでも各人が自由に決定すべきことがらであり、原告本人尋問の結果によれば、原告も上田建設の作業としてこれまでに何度も棟上げ作業に従事してきたが、その際の餅まき行事には、そのときの気持ち次第で参加したり参加しなかったりしたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。更に、本件全証拠によっても、本件棟上げに際し、上田が原告を含む全従業員に対して餅拾いに必ず参加するようにとの業務命令を発したことを認めるに足りる証拠はない。

従って、これらの各事実に照らせば、餅拾いの行為をもって、棟上げ作業という業務そのものを遂行するために必要な行為又は業務遂行途上における合理的な行為とみることはできないから、原告の右主張は採用できない。

(四)  また、原告は、本件災害は、多数の群集が餅拾いのために三好方に集まってくるという危険な状況の下で発生したものであるから、施設の状況に起因するものとして、業務起因性が認められるべきである旨主張する。

ところで、前記(一)記載の各証拠((一)で信用しない証拠を除く)によれば、餅拾い、とりわけ、餅まきの最初に行われる隅餅及び天餅については、群集がこれを拾おうとして特定の場所に集中するために衝突などの危険性は認められるものの本件では、原告が自らの自由意思で餅拾いに参加したものであり、しかも、原告は、これまでにも何度も棟上げ作業の際の餅まき行事に参加し、こうした危険は十分承知していたことがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、本件災害は、原告が自ら危険の中に身を置いた結果発生したものであって、使用者が指定し、又は、業務の遂行上使用が必要とされる施設の不完全なことに起因して発生した災害であるということはできないから、原告の右主張は採用できない。

(五)  以上のとおりであるから、本件災害については、業務遂行性も業務起因性も認めることはできない。

5  被告の主張第1項(三)の事実は、当事者間に争いがない。

6  以上のとおりであるから、本件処分は適法であり、これを違法とする原告の主張は、いずれも理由がない。

三  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないものとして、これを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官 笠井昇 裁判官 田中敦)

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